ブリーチの夏

近所のよく行く焼き鳥屋にいった。

 

席についたときに違和感がボンってきた。

 

何かが違う。

圧倒的に何か違う。

 

でもいつもの大将だし

学生らしきアルバイトの男の子たちは

いつもと同じようにテキパキと明るい。

 

運ばれてくる焼き鳥が二巡目に行く頃に気づいた!

 

 

アルバイトの男の子たちの

髪の毛が脱色、さ、れ、て、る!

みんなおんなじ色じゃん!!!!

 

 

あれ?なんでみんなして?

あれ?あ、いま夏休みだっけ?

 

え、もしかして夏休みだから

みんなでブリーチしたの?!

 

ほんとのところはわからないけど

だとしたらとってもかわいいな!いいな!

ってほっこりした。

 

 

夏休みだから髪を染めよう!

夏休みだから化粧してみよう!

夏休みだからピアスあけてみよう!

 

 

いつもある囲いがパッと開く感じ。

なんでもできるね、って楽しい感じ。

夏ぐらいいいよね、って許される感じ。

 

自由な今ももちろん好きだけど

学生の頃のあの感じも好きだったなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たまに思い出すこと

宇佐美先生という英語の先生がいた。


色が白くて、細くて、いつもスーツ。

几帳面なメガネをかけている品のあるおじさん先生。


見た目と違わずきっちりと授業を進めるタイプで、授業のひとつの楽しみである駄話などは全っ然しない。親しみやすいキャラクターではないんだけど、教え方のうまさとその物腰の柔らかさで人気があった。


いつも起立礼で即授業。

ずっと立って板書をし続けるスタイル。

その日もいつもと変わらず始まった。


なんだけど、授業の中盤で板書をやめストンと教卓の椅子に座った。


確かにキリがいいところではあったから

残りの時間は珍しく自習なのかなとか

風邪でもひいているのかな、なんて思っていた。


みんな「?」な顔していたのは

けっこうはっきりと覚えてる。

 


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今日は授業は終わりです。キリもいいですし。なのでこの時間だけは特別に先生をやめて話をしますね。受験も卒業も近いですし、ね。

 


みなさんはこの3年間とてもよく頑張りましたね。テストの点は人によるのでともかく(笑)でもみんな真面目に取り組んでいたと思います。えらい。先生から見ても優秀だなと思います。

 


そして私が言うよりも前からみなさんは優秀だ優秀だと言われ続けてきたのではないしょうか。そして、それと同じだけ早くから期待を背負ってきたのではと思います。

 


小学校のときはいい点数を、

中学校に入学したらいい高校に、

高校に入学したらいい大学に、

 


人によっては厳しく

人によっては無言で

あれよあれよと生み出される

この期待を受け止めてきたでしょう。

 


そしてそれを疑うことなく

ひたむきに頑張ってきた人が大半ではないでしょうか。

 


先生も先生という立場上

みなさんにはよりよい大学へと指導してきました。

 


みなさんの多くは

いい大学に入ったらいい就職先に、

と期待される人も多いのではと思います。

 


でも、これはいつまで続くのでしょうか。

 


いい就職先に入ったらいい役職に?

 


そうなる場合もあります。

 


しかし、いずれにせよ先生はいつか終わりがくるんじゃないかなと思います。

 


周りからの期待や自然と設定されていた目標がなくなってしまってしまう人、なんのためにやってるんだろうだったりなにがやりたいんだろうとおもう人。

 


どこかで立ち止まる時がくると思います。

 


そして君たちにとって

それは大きな不安になると思います。

答えがあるものではないので。

 


でもそのときはどうか安心して

立ち止まってください。

 


立ち止まることを恐れないでください。

それはみなさんの人生にとって、とても必要な時間です。

 


じっくり立ち止まって、また歩き始めればいいのです。人生はみなさんが思うよりは長いし、世界はみなさんが思うよりは広いです。

 


もちろん与えられた期待や目標に努力したことは無駄になりません。でもだからこそというわけでもないですが、少々立ち止まったって大丈夫です。

 


この話は授業に関係ないので、宇佐美が変なこと言ってるなと流してくれて構いません。

頭の片隅に置いておいてもらえるのであれば、そのときがきたらちょっと思い出してもらえればと思います。

 


では、来週からは通常の授業に戻ります。

 


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特別熱くなるわけでもなく。

話し終えたところでチャイムがなった。

あっさりと先生は出て行った。


もちろん次の授業からは元どおり。

卒業式でもそんな話をすることはなかった。

まるでそんな話はなかったかのように。


夢だったっけと思うぐらいの20分。

 

今でもたまに思い出す。

大人になってからもなお噛みしめる。

 

 


先生、元気だといいな。

 

 

 

 

平成最後の夏キャンプ

ハイエースにのって

同期11人でキャンプにいった。

 

 

ハイエースで友達とキャンプ」ってだけでとってもリアルが充実している感じがする。なのに、今年はどうしたって「平成最後の夏」がうしろにひっついてくる。

ああ、もう困ってしまう。そんなの絵に描いたような青春劇にしかなりえない。

 

 

そんな楽しいキャンプの帰り道。

前触れもなくお互いの家族の話になった。

家族っていうのは自分の父母や兄弟、祖父母の話。最初は、禿げる?禿げない?似てる?似てない?みたいなよくある話だったと思う。

 

 

そこから突如として、様々な、ほんと様々な家族の話になっていく。複雑な話も、もちろんある。でも一様に語り口が柔らかい。困ったことも、大変だったことも、現在進行形なお悩みも、心のふにゃっとした部分を突くようなセンシティブな話のはずなのに明るく朗らかに話していく。時にはおどけて笑いをとったりして。

 

 

話せるようになったんだとも思うし、

話したかったんだとも思う。

そして、そこには聞く人への気遣いもたぶんにあった。話し終わった後に残ったあのあたたかさは、その語り口のおかげだ。

 

 

朗らかな語り口の裏に、背けずに冷静に受け止めたその人柄が垣間見れるようで。話せるようになったのは乗り越えた強さで、聞く人への気遣いは乗り越えたからこその優しさなんだろう、大人になるってこういうことなのかなとふと思った。

 

 

あの瞬間だったり、ああやって話す友達を忘れたくない。

 

 

平成最後の夏

ハイエースの旅

夕暮れの高速道路

かぞくの話

やっぱりどうしたっていい時間だった。

踊るスーザフォン

金足農 大垣日大

 

 

金足農業といえば

剛腕吉田投手を擁する公立の星。

 

 

一回戦に続く二桁奪三振ショー、えび反りで歌う全力校歌など紙面を騒がす魅力に事欠かない高校だ。

 

 

大垣日大だって甲子園常連校。

この試合は語るべきところがたくさんある。

 

 

いや、本当にたくさんあった。

 

 

なのにである。

記憶に残ったのは、あの白いスーザフォンなのである。

 

 

ちなみにスーザフォンなんて名前を知ったのは今この瞬間。わかりやすく言えば、1番大きく目立つ肩掛け金管楽器である。

 

 

 

「みてみて、あれ」

 

 

そう言われて見ると、いた。

明らかに他とはちがうひとり。

 

 

そう、動きがおかしいのである。

 

 

スーザフォンが巻きついた身体が上下左右に揺れる揺れる。応援歌に合わせて大きく下を向いたかと思えば、次の瞬間にガッと天を仰ぐ。小刻みに横に揺れたかと思えば、動きをためてブンっと一振りする。

 

 

いわゆる決められた振りではないし、

それでいて自分に陶酔している動きでは全くない。

 

 

 

午後2時、

炎天下のアルプス、

10kgの管楽器、

競り合う試合。

まるで止まることを知らないスーザフォン

 

 

 

一際目立つその白い舞は

楽しそうにも見えたし、

見続けているとなんだか祈りにも見えた。

 

 

 

届け、届け。

届け、届け。

届け、届け。

届け、届け。

 

 

 

そして当たり前のことに気付く。

あそこにいるのは

あの子のクラスメイトかもしれないのか。

 

 

 

そして私はまざまざと思い知らされる。

応援というのはこういうことだった、と。

 

 

自分にできることを、あの子のために全力を出す。

 

 

誰かを心の底から掛け値なしに応援することも、自分の力を惜しみなく振り絞ることも、実はとても難しいものなのかもしれない。

 

 

だから目が離せず、尊いと思ったのだろうか。

 

 

 

 

混じり気なく目の前の誰かをまっすぐ想う気持ちに身体が揺れる。

 

 

 

 

 

 

彼もまた甲子園で戦っていた。